塩原先生の観察力と保育を偲ぶ　（２）
　　「この子は、いっぱい泣かせてやって」

東間が若かったころの保育園の園長、塩原先生のご指導です。

直ちゃんの入園

　4歳男児“直ちゃん”が途中入園してきた。初めての入園とあってか、ワンワン泣いている。
4歳児にしては泣き方が激しく、毎日泣いている。
　声をかけられるのを嫌がり、一層泣き声が大きくなる。（やれやれ、4歳児なのに、ネ）
泣いていて、保育士が対応しないの、と思われるのも・・困るし。
こういう場合、園長先生にご相談（というか）しないとまずい。

　ところで、直ちゃん一家には大変なことが起こったのだ。入園理由、お父さんの突然の逝去。元気だったお父さんが朝亡くなっておられたのだ、という。
　家にはおばあさんと母、姉と直ちゃんが残され、お母さんは急遽働くことになった、とのこと。
ほんとうに、身近でこういうこと、起こるのか。
　そうなんだね、直ちゃん、それで保育園に入ったのね。お家での激変を通って、そしてまた見も知らなかった保育園に入ってきたのね。

「園長先生、どうしたら？」

「アー、アー、アー」室内で園庭で、一人離れて、声を限りの号泣。もう4～5日続いている。
そこで、園長先生へ、「あの、新入園にしても、どう保育しても、4歳にしては泣きが長いし・・」
「ほんとうに」塩原先生もうなづいた。
「気になるでしょ？」そこでぐっと声を落とし、伝えられた。

園長先生の、神の声 「この子は、泣かせてやりなさい」

「あのね、あの子は泣かせてやりなさい。もういいって本人が思うまで」
（エ？泣かせておくっていう保育？そういうの、あるの？） 新米保育士はぐっと詰まり
　はあ、と声だけ出る。
「あの子はね、ご不幸のことで泣きたいのよ。もういい、って自分で思うまで泣かせて。」
　そして、ここからが大事。
「直ちゃんの手足、見てるでしょう？」（ええ、見てますとも。なぜかできものがいくつもできて、包帯だらけ。
「あの子の苦しみがおできになって出てくるの。沢山泣くとおできも治ると思う。だから」
（へ？へ！へー！！）（おできと，泣きと、関係が・・？）
この時代は、おできができる子どもはすでに少なかった。
「はい、わかりました。」わたしは不思議な思いで答えた。だって、泣くと引っ込むできもの？？ フーン。

直ちゃんには、こちらの親切な顔を見せるだけで、泣きはそのまま続いた。
なぜか、給食も食べるし、おしっこにもちゃんと行った。

そして泣き続けた結果は・・

そして・・わたし自身が泣きも気にならなくなった頃、直ちゃんは泣かなくなった。
何ということか。おできも、さ―っと治っていた。

えー！大泣きして、つらさをみんな外に出して治っちゃうなんて！
　自分は、こんな体のメカニズムを知らない歳だった？ それで保育士やってたんだ。わたし。
おそらく、塩原園長先生の話が無かったら、直ちゃんの泣きにムキになって、抱いたり引っ張ったり余計な手掛けして彼自身の自浄作用を途中で止めさせてしまったろう。
そうであったら、泣きは止まっても、おできは治らずに出続けたのでは。

できものまで治って元気に

　涙が止まり、おできが去り、サッパリした直ちゃんは4歳男児を取り戻し、嬉々として遊び始めた。お母さんも、心なしか苦しそうな表情が少しずつ消えていった。

そうだったのか。そうだったのね。直ちゃん。

ところで、直ちゃんにはそれっきり会っていないけど、今、何歳ごろ？ 私が保育士2年生のころの4歳。だから50歳過ぎ？
　ああ、昔のことね。今でも思い出すの。直ちゃんと、塩原園長先生のご指導を・・